「食べものの品定め」 ’00年11月21日
ところで、まだ「ノルウエーの森の猫」を読んでいます。
と言うのも、私の場合、おなじ本をずっと読んでいることは少なくて、家で読む本と通勤の途中で読む本は違っていたりするからです。
それは、持って歩くには本が厚すぎるとか大きすぎるとかという理由のこともありますし、単純に好みの問題であることもあります。
「ノルウエーの森の猫」の場合は通勤途中に読む本になりました。
小さくて持ち歩きやすいということと、少しずつ細切れに読んでも印象がしっかりと残るタイプの本だったからです。
それはともかく、この本におもしろいことが書いてありました。
「ところで、どんな紳士猫だって、食べものの前にどしんとおろされるのが好きな者などいないのです。
紳士猫の掟をいうなら、どんなにひもじくとも急がず、遠くからおもむろに食べものに近づき、少なくとも1メートルくらい離れたところでにおいを嗅ぎ、けっこう、まずまず、我慢できなくはない、話にならぬ、のいずれに該当するか判決をくだすことになっています。
もしもその判決が『けっこう』であるならば、彼はごくゆっくりとそれに近づき、しゃがみのポジションで腰をすえると、食べものを口にする前に、その尻尾を体に巻きつけます。
『まずまず』ならば、しゃがみこみはしますが、尻尾はそのまま残し、床の上に伸ばしておきます。
『我慢できなくはない』にすぎないときは立ったまま食べますし、『話にならぬ』の場合なら土をかけて埋めるふりをするという儀礼を行なうのです」
これは作者の小手鞠さんが好きなアメリカの作家メイ・サートンが書いた『猫の紳士録』(武田尚子訳・みすず書房刊)の中に書かれている文章を引用したものだそうです。
作者の小手鞠さんはこの判決の表現についてきわめて感心し、納得していました。
気にいらない缶詰の時に「ザッ、ザッ、ザッ!」と砂かけをしていることはよくありますが、尻尾の巻き方にまでは私も気がつきませんでした。
モコたちはどうだったかなと考えながらテーブルの上を見ると。
ちょうどメリーがガラスのボウルの中に顔を突っ込んで、うれしそうにバターをなめているところでした。
それは娘の久美子がケーキを作るために練り上げたばかりのバターでした。
メリーはバターやチーズが大好きです。
それでメリーの尻尾は?と見ると、左右に大きくゆったりと振っていました。
なかなかうまくはいかないものです。
しし丸の場合を考えても、しし丸は食べるだけ食べてしまってから、もうほとんど残っていない皿に向かってせっせと砂かけをしていたのです。
そう言えば、しし丸が食べている時にそばを通った私がうっかり尻尾を踏んづけてしまったことがありました。
踏んだということは、しし丸は尻尾を伸ばしていたのでしょうね。